2016年モバイル業界を振り返る

2016年モバイル業界を振り返る

今年のモバイル業界において、いい意味でも悪い意味でももっとも話題性のあったキーワードと言えば、やはり、『総務省』をおいて、他にはないだろう。一昨年の「携帯電話料金タスクフォース」で示された指針を受け、携帯電話各社に対し、販売施策や料金体系などの是正が要請され、その結果、携帯電話ビジネスの販売や在り方が大きく変わることになった。

2016年5月、総務省はタスクフォースの一連の成果を検証するフォローアップ会合も実施した

まず、初期段階では番号ポータビリティ(MNP)利用者に対する優遇施策が見直され、基本的には一般的な機種変更とMNPでの端末販売価格の格差は、是正されることになった。契約者の流動性を高めることで、各携帯電話会社の競争を促し、料金の低廉化を実現するためにスタートしたMNPだが、一定の周期でMNPによる端末買い換えをくり返すようなユーザーが増えてしまい、携帯電話会社との契約を変更しないユーザーとの格差が生まれ、見直されることになった。元々、こうしたMNPユーザーを重視する販売施策はなかなかMNPを利用しないユーザーを刺激するために、業界第3位だったソフトバンクが初期段階で仕掛けたものだったが、当初は1~2万円程度の商品券だったものがいつしか家族4人で数十万円のキャッシュバックという生々しい施策による販売競争がくり広げられたため、ユーザーからも不満の声が聞かれるようになり、見直しにつながった。各携帯電話会社が端末購入に伴う月々サポートなどの月額割引サービスにおいて、通常の機種変更ユーザーに比べ、MNPユーザーを大幅に偏重する施策が採られてきたが、これも徐々に見直され、現在はほぼ同一価格で購入できるようになっている。

また、携帯電話料金タスクフォースで挙げられていた「ライトユーザーへの配慮」を考慮した各社の「1GBプラン」も発表された。ただ、1GBプランはスマートフォンを持ちながら、ほとんど利用しなかったり、自宅などのブロードバンド回線経由を中心に使うユーザーなど、恩恵を受けられるユーザーが限られているという指摘もあった。同時に、ネットワークのパフォーマンスを求めないライトユーザーは、MVNO各社のプランを検討するため、各携帯電話会社の1GBプランについては導入してみたものの、今ひとつ有効なプランという印象は得られなかった。

2016年モバイル業界を振り返る

同様に、内容を疑問視されたのが携帯電話各社の「2年契約」の見直しだ。携帯電話各社では2年契約を約束することで、月々の基本使用料を割り引く「2年契約」を以前から導入していたが、途中での解約には契約解除料が1万円弱が請求されるため、こうした契約解除料がかからない料金プランが総務省から要請され、携帯電話各社がこれに対応した。しかし、auとソフトバンクが発表したプランは、実質的に契約解除料を分割払いにするような内容でしかなく、まったく評価に値しなかった。NTTドコモのプランは2年契約更新時にポイントを付与するなどの工夫が盛り込まれ、一定の評価は得られたが、今後、ユーザーが契約期間が拘束されないプランを選ぶかどうかは、未知数だ。

次に着手されたのがいわゆる「実質0円販売」の見直しだ。これは前述の各携帯電話会社の月額割引サービスにも関連するが、端末価格に対し、一定条件を満たすことで、端末代金の分割払いが終了する2年後に、実質的な負担額が0円になるというものだ。端末購入時の月額割引サービスに加え、各携帯電話会社のオプションサービスを契約することで、割引額を増やし、実質0円にするケースも多く見受けられ、これも合わせて、見直される結果となった。その結果、昨年に比べ、端末の購入価格は全体的に上昇し、当然のことながら、端末の販売台数も落ち込むことになった。(※関連記事)

こうした一連の総務省の指導や要請の背景には、端末購入に伴う割引などに使うための原資があるなら、その分、月々の料金の低廉化を目指せという意図がある。ただ、ユーザー側の視点から見ると、現時点では端末の購入価格が高くなっただけで、月々の料金が安くなった印象はほとんどなく、総務省の指導や要請が消費者の利益にほとんどつながっていない。総務省やタスクフォースに参加した関係者からは、自らの功績を謳うようなコメントも聞かれるようだが、販売方法の見直しなどがゴールではなく、最終的には料金の低廉化が目的であり、それを柵に挙げて、「我々が頑張りました」的な発言が聞こえてくるのは、いかがなものだろうか。

また、もう一つ気になるのは、総務省がどこまで介入すべきなのかという議論だ。これは一昨年の携帯電話料金タスクフォースが始まったときから指摘してきたことだが、各携帯電話会社がどのような形で販売するのかは、本来、各社が判断すべきことであり、総務省が民業に介入することは、本質的にあまり望ましいことではない。料金が認可制だった時代ならともかく、規制緩和が進み、各社が自由に料金などの施策を決められる今日において、総務省が販売方法や割引サービスの内容にまで、事細かに介入することは時代に逆行していないだろうか。総務省の指導や要請により、MNP偏重の販売施策が見直されたことは歓迎できるものの、クレジットカードの契約者に対する端末割引クーポンや株主優待割引にまで口を出すのは、さすがにやり過ぎの感は否めない。クルマや家電製品、クレジットカード、放送サービスなどにおいても製品購入や契約に伴う割引は、数多く存在するが、こうした他製品の割引サービスと整合性も取れなくなってしまう。

さらに、こうした総務省からの要請や指導を受け、各社の施策はポイントサービスなどに移行しつつあるが、もしかすると、来年以降はこのポイントサービスにまで手を入れてくるのではないかという指摘もある。くり返しになるが、あくまでも目的は料金の低廉化であって、販売方法や割引サービスの是正はそのために必要な手段でしかない。かつて、モバイルビジネス研究会を経て、現在のような月額割引によって、ある程度、端末販売のバランスができあがってきた状況において、再び販売方法ばかりに目を向けて、是正してしまうと、同じような歪みを生み出してしまうかもしれない。ユーザーとしても今後の総務省の動向、各社の反応をじっくり見極めたいところだ。