秋吉 健のArcaic Singularity:コントロール・デバイス・ジェネレーションズ(前編)。ゲームが切り開いてきた表現方法と入力デバイスの歴史を紐解く【コラム】 - S-MAX

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秋吉 健のArcaic Singularity:コントロール・デバイス・ジェネレーションズ(前編)。ゲームが切り開いてきた表現方法と入力デバイスの歴史を紐解く【コラム】

2021年10月31日11:25 posted by 秋吉 健list
ゲームの入力デバイスの歴史を紐解いてみた!
任天堂が「Nintendo Switch(有機ELモデル)」を10月8日に発売しました。画面が若干大型化し、OLEDによって発色が良くなったと言われる一方で、筆者としてはジョイコン部分ももう少し改良してほしかったと感じていたりもします。筆者は自他ともに認めるヘヴィゲーマーで、毎日スマートフォン(スマホ)向けゲーム(以下、スマホゲーム)やオンラインゲームを楽しんでいますが、ヘヴィゲーマーゆえに入力デバイスへのこだわりや思い入れも強くあります。スマホゲームが一般に普及した現在、ゲームの入力デバイスは過去にないほどの多様化と進化を見せています。画面上に触れて操作するタッチパネルもまた、入力デバイスの1つのかたちです。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はゲームの入力デバイスに焦点を当てた上でコラムを前編と後編に分け、その歴史を紐解きながらゲームと入力デバイスの深い関わりについて解説していきます。ゲームにとっての入力デバイスとは一体何だろうか■ゲームの表現力に合わせて進化してきた入力デバイスみなさんはゲームの入力デバイスと聞いて、最初に何を思い浮かべるでしょうか。多くの人はプレイステーションシリーズやニンテンドースイッチシリーズなどのゲームパッドではないかと思います。そして、そのゲームパッドを象徴する入力方法は?と聞かれれば、多くの人は「十字キー」と答えるでしょう。ところが、実はこのゲームパッドの十字キーも、一般的ではない時代がありました。若い世代には信じられない話かもしれませんが、ゲームの入力方法と言えば、指先で摘んでクルクルと左右に回転させるボリュームコントローラ(パドルコントローラ)が標準だった時代があるのです。ファミコンが大ヒットしゲームの歴史を塗り替えた理由はゲームパッドにあった?ファミコン以前のビデオゲームと言えば、小さな板状のものでボールを打ち返して遊ぶテニスゲーム「PONG(ポン)」に代表されるような、非常にシンプルなものでした。コンピュータの性能が低く、それ以上のゲーム的な表現が難しかったからです。そのため、その後に登場したビデオゲームの多くもPONGを真似たり少しアレンジを加えたものがほとんどで、その入力方法として板(ドット)を上下もしくは左右に動かすのに最適なパドルコントローラが入力デバイスとして定着したのです。PONGとその派生ゲーム機は世界中で作られ、日本でもテレビゲーム15やシステム10といった名機が生まれたところがその後、コンピュータの処理性能の向上によって表現力が飛躍的に増大した結果、上下もしくは左右しか操作できないパドルコントローラでは操作が難しい表現も可能になってきたのです。そのような中で、ついに革命が起こります。画面上のキャラクターを上下左右に自在に動かすための入力デバイスとしてジョイスティックが生まれ、それを家庭(個人)でも簡単に楽しめるものとして十字キーが誕生したのです。十字キーを最初にゲーム機へ採用したのは任天堂でした。しかしながら、任天堂が十字キーを最初に搭載したのはファミリーコンピュータ(ファミコン)ではありません。ゲーム&ウォッチの「ドンキーコング」です。そのゲーム&ウォッチ版ドンキーコングの十字キーを家庭用ゲーム機に搭載したら便利なのではないかと考え誕生したのが、ファミコンとそのゲームパッド(当時はコントローラと呼んでいた)でした。ゲーム&ウォッチのドンキーコングに搭載された十字キーは、アーケード版のジョイスティックの操作方法を簡易に再現するために考案されたものだったファミコンと全く同じ1983年7月15日に発売されたセガのゲーム機「SG-1000」では、アーケードゲームのようなジョイスティックが採用されていたその後、10年以上に渡って十字キー(とその派生キー)を採用したゲームパッドは家庭用ゲーム機の主要入力デバイスとして活躍しました。次に入力デバイスの革命が起きたのはゲームの3D化によってです。プレイステーションとセガサターンが家庭用ゲームの世界において3Dゲームの時代を築き上げましたが、ここで大きな問題にぶつかります。格段に向上した映像表現に対して、十字キーによる操作だけでは不満が生じ始めたのです。その象徴的な例が、プレイステーションと同時に発売され、そのヒットの牽引役にもなったレースゲーム「リッジレーサー」用に開発された、「ネジコン」というゲームパッドです。このゲームパッドは中央部を左右の手でねじるように回転させることで実車のハンドルのような操作感を再現し、アーケードのレースゲームの臨場感を家庭に持ち込んだのです。この「アナログな入力方法」こそが3Dゲームの時代に必要とされたものでした。そして生まれたのがアナログスティックを搭載したゲームパッドです。アナログスティックはその後も3Dゲームの理想的な操作方法として定着し、ニンテンドースイッチやプレイステーション5といった最新のゲーム機にも引き続き採用され続けています。ネジコンはバネの力でハンドルの復元力まで再現していたほか、一部のボタンもアナログ入力に対応しアクセルコントロールを再現するなど、革新的なゲームパッドだったアナログスティックは十字キー共々、これからも入力方法の1つとしてずっと採用され続けていくだろう■ゲームの多様性が入力デバイスの多様性も生み始めたゲームの入力デバイスはゲームの表現力(≒コンピュータの処理性能)の向上とともに進化してきましたが、その表現力が過渡期に入り、同時にインターネットが普及し始めると、直線的な進化や追加ではなく多様な分化と広がりを見せ始めます。初めに起こったのはパソコン(PC)でゲームをする文化および分化でした。1980年代にはすでに始まっていた流れではありましたが、長い間マイナーな存在であり、PC-9800シリーズなどでようやくゲーム文化が一般に認知され始めた程度でした。そのような中で、一躍PCゲームが脚光を浴び、その入力デバイスであるQWERTY配列のキーボードがゲームの入力デバイスとしても有用であると認められ始めたのはオンラインゲームの登場でした。PC史に燦然と輝く「PC-9801」。とくに「PC-9801VM」以降の機種は、アダルトゲームを遊びたくて「勉強用だから!」と言い訳して購入した男性諸氏も多かったのではないだろうかオンラインゲームは、それまでのゲームと違い「遠く離れた人と一緒に遊べる」という点があまりにも革命的でした。条件さえ揃うなら、地球の反対側にあるアメリカの人とも一緒にゲームを遊べたからです。今では当たり前かもしれないその概念とゲーム性は、当時の人々にしてみれば想像を絶する未来のお話か、もしくは小説や映画のような空想世界のものでした。そしてその超未来を体験する際に、最も大きなハードルとなったのがコミュニケーション手段でした。それまでゲームの入力デバイスと言えば十字キーやアナログスティックの付いたゲームパッドが主体でしたが、ゲームパッドでは意思を伝えるための文字を入力するにはあまりにも不便だったのです。そこで用いられたのがPC用のキーボードでした。使い慣れれば1分間に数百文字を入力可能で、「こんにちは」「はじめまして」といった挨拶程度であれば一瞬で打てます。自宅に友人を呼んで一緒にゲームを遊んでいるかのように、地球上のどこにいても誰かと一緒に遊べるという体験は、そのキーボード操作を人々が必死に覚えたいと渇望するには十分すぎるほどの魅力でした。オンラインゲームでキーボード入力が必須となり、その習熟にも焦点が当てられるようになると、今度はキータイピングそのものがゲーム化するという流れも生まれます。ドリームキャスト用ゲーム「ザ・タイピング・オブ・ザ・デッド」やPC用アプリ「激打」シリーズなど、数多くの名作ゲームも登場しました。セガのゲーム機「ドリームキャスト」では日本初の家庭用オンラインRPG「ファンタシースターオンライン」も登場し、日本のオンラインゲーム市場の基礎を作ったその後家庭用ゲームの世界では、さらに違った進化も始まります。2010年代には3D映像による空間表現とそのアイデアが飛躍的に向上した結果、アナログスティックでの操作すらも限界に達しており、新しい入力方法が模索されていた時代でした。そして生まれたのが、赤外線やカメラ、加速度センサーなどを駆使し、映像認識技術も活用したモーションコントロールデバイスです。任天堂はWii向けに「Wiiリモコン」と「ヌンチャク」という従来型のゲームパッドを置き換える入力デバイスを開発し、ソニーは「PlayStation Eye」および「PlayStation Move」を、そしてマイクロソフトは「Kinect(キネクト)」を生み出します。プレイヤーの動作をそのままゲームに反映させる、という考え方は斬新且つ革新的ではありましたが、最大の問題点として「疲れる」というのがありました。そのため、モーションコントロールデバイスは一過性のブームとして終わってしまいます。過去にはファミコンでもグローブ型のゲームコントローラが登場するなど、モーションコントロール系のデバイスはいくつか登場してきましたが、繊細な操作が難しかったり疲れるといった問題は、2010年代になっても払拭できなかったのです。映像表現に対する入力デバイスのアイデアは良かったが、それをゲームとして成立させる段階で失敗してしまったその点任天堂にはアイデア力があった。「疲れる」という欠点を逆手に取り、フィットネスアプリでヒットを生み出した■スマホの登場、そして未来へこのようにして、ゲームとその入力デバイスはコンピュータの処理性能の向上や表現力の向上、さらに技術的なブレイクスルーをいくつも乗り越えて大きく進化していきます。そしてさらなる入力デバイス革命が起きたのは、今や誰もが当たり前に使っているスマホの登場でした。スマホの入力方法やスマホに搭載された技術は、家庭用ゲーム機のモーションコントロールデバイスとは異なり、既存の家庭用ゲームやオンラインゲームの枠すらも超え、あらゆる意味で世界を変えていくことになります。スマホは「入力デバイスがゲームの表現方法を変えた最初のデバイス」かもしれない私たちが2010年頃までコンピュータという存在を最も身近に感じてきたのは、ゲーム(ビデオゲーム)という非常にシンプル化された表現と遊び方であったことは間違いありません。1980年代には普及していたはずのPCも一般家庭では利用されず、インターネットブームが起きた1998年以降も十分に普及してきたとは言い難いからです。しかしながら、スマホはそれらのゲームやPCを超え、完全に私たちにとって最も身近なコンピュータとなりました。スマホとその技術が切り開く未来はどのようなものなのでしょうか。かつてファミコンの十字キーがゲームの世界を子どもたちに開き夢を与えてくれたように、スマホとその入力方法(タッチ操作)は新しい夢を見せてくれるでしょうか。その解説や未来への展望については、xRという新しい技術の解説とともに本コラムの後編へと引き継ぎたいと思います。ゲームの未来が、私たちの生活の未来と融合しようとしている記事執筆:秋吉 健■関連リンク・エスマックス(S-MAX)・エスマックス(S-MAX) smaxjp on Twitter・S-MAX - Facebookページ・連載「秋吉 健のArcaic Singularity」記事一覧 - S-MAXTweet
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